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最高裁判所大法廷 昭和30年(オ)478号 判決 1958年2月12日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

論旨(1)は、本件小城町健康保険条例の無効を主張する。しかし、原判決は、挙示の証拠により被控訴人(被上告人)が昭和二三年法律七〇号による国民健康保険法の大改正に伴い、昭和二三年一〇月三〇日小城町議会に同町国民健康保険条例案を提出し、小城町会議員二六名中出席議員二〇名の全員一致を以て右条例案が可決せられ、次で県知事の認可を受け、国民健康保険事業を実施するに至つた事実を認定し、所論小城町会議員小副川延一及び田尻文平が右議会の議決に欠席して加わらなかつたとの主張事実を認めるに足りる証拠がない旨説示している。そして、右証拠によれば、右の認定、説示を首肯することができる。されば、本件条例は、町議会の議決により制定せられた適法のものであつて、公聴会が開かれなかつたとか、町民の大多数の反対を無視してなされたとかいうだけの理由でこれを無効とすべき何等の根拠もないとの原判決の判断は正当であつて、所論は、その理由がない。

論旨(2)は、本件県知事の認可は、未だ議決もない事項についてなされた無効のものである旨主張する。しかし、原判決は、原審証人野崎源太郎の証言によつて、昭和二三年一〇月三〇日小城町議会において、本件条例が可決され、その後同年一一月二日頃県知事が認可し、ただ認可の日を遡らしめたに過ぎないものである旨認定し、その認定は、右証言に照しこれを肯認することができるから、所論無効の主張は、その前提を欠き採るを得ない。

論旨(3)は、元来国民健康保険制度は、幾多の不備、欠陥を包蔵し住民を強制してその加入を求むべき性質のものではないのに小城町条例は、その加入を強制し、更に保険料と称して国民の財産権を侵害しているから、該条例は、憲法一九条、二九条一項、九八条に違反する旨主張する。しかし、国民健康保険は、相扶共済の精神に則り、国民の疾病、負傷、分娩又は死亡に関し保険給付をすることを目的とするものであつて、その目的とするところは、国民の健康を保持、増進しその生活を安定せしめ以て公共の福祉に資せんとするものであること明白であるから、その保険給付を受ける被保険者は、なるべく保険事故を生ずべき者の全部とすべきことむしろ当然であり、また、相扶共済の保険の性質上保険事故により生ずる個人の経済的損害を加入者相互において分担すべきものであることも論を待たない。されば、本件のごとく、町民の代表者たる町議会が絶対過半数を以て決議し、県知事の認可を受けて適法に制定された小城町国民健康保険条例五条が、この町は、この町内の世帯主及びその世帯に属する者を以て被保険者とする(但し左に掲げる者を除く。一、健康保険の被保険者及び船員保険の被保険者但し船員保険法二〇条一項の規定による被保険者はこの限りでない。二、法律の規定に基いて組織する共済組合であつて私傷病につき療養に関する給付をするものの組合員。三、貧困のため地方税の免除を受ける者並にこの世帯に属する者。)と規定し原則として住民全部を被保険者として国民健康保険にいわゆる強制加入せしめることとし、また、同条例三一条が世帯主である被保険者は、町民税の賦課等級により保険料を納付しなければならないと規定して、被保険者中保険料支払の能力ありと認められる世帯主だけを町民税の賦課等級により保険料支払義務ある旨規定したからといつて、憲法一九条に何等かかわりないのは勿論、その他の憲法上の自由権および同法二九条一項所定の財産権を故なく侵害するものということはできない。それ故、所論違憲の主張は、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 入江俊郎 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一)

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